「十脚甲殻類の社会性(1) ペアで見つかる種のオス─メス関係(生物科学.第49巻第4号.1998年3月)」
によると,甲殻類の「ペア制」は,
オス同士の闘争を経てメスを一時的に確保して交尾する「交尾前ガード」(婚姻形態としては「乱婚」)とは異なり,
恒常的な「一夫一妻制」だと考えられています
Wickler, W. & Seibt, U (1981)は「甲殻類と人における一夫一妻」
("Monogamy in crustacea and man." Zeitschrift Fur Tierpsychologie, 57, 215-234.)
という論文の中で,
「甲殻類と人を研究することで一夫一妻という語の持つ複数の意味が理解できる」
と述べているそうです
この共生甲殻類の中には「他種との情報交換」によって
非常に面白い「社会」を形成している例があります
例えば,ヤドカリが背負っている貝殻の中に共生する例が
テッポウエビ類やカニダマシ類で報告されています
クレナイヤドカリテッポウエビAretopsis amabilisが
コモンヤドカリDardanus megistosなどのヤドカリに接近する際には
第1顎脚のはさみを上下に振ってノックするような行動が見られ,
何らかのコミュニケーションが成立していると推定されています
(亀崎由美子・亀崎直樹(1986) クレナイヤドカリテッポウエビ Aretopsis amabilis De Man の生態に関する知見. 南紀生物, 28: 11-15.)
また,基底に穴を掘って単独またはペアで生活するテッポウエビ類にハゼ類が共生する例があり,
このハゼとエビの間には,危険を察知した時に体や付属肢の動きによって
それを伝達するコミュニケーションが成立していて,
>Karplus, I. 1979. The tactile communication between Cryptocentrus steinitzi (Pisces: Gobiidae) and Alpheus purpurilenticularis (Crustacea, Alpheidae). Z. Tierpsychol. 49: 173-196, 13 figs.
その高い情報伝達量も計算されています
>Preston, J.L. 1978. Communication systems and social interactions in a goby-shrimp symbiosis. Anim. Behav. 26: 791-802.
コメント(2件)
>教えてください。(関係があるのか、ないのかも含めて)
確かに,アリなどの真社会性の昆虫は,
コロニー全体として,ひとつの個体のように振る舞う集団行動を取っていますが
情報交換のベースは2匹間のコンタクトだという研究があります
>社会性昆虫の行動解析とモデル化~トゲオオハゲアリの集団における相関~
>
>概要
>
>社会性昆虫であるアリは、コロニー全体として、ひとつの個体のように
>振る舞うという集団行動を行っている。本研究の目的は社会性昆虫である
>アリの集団行動を2匹からの行動を解析することで、明らかにすることで
>ある。数匹のアリが未知な空間を探索するときに、アリ同士がどのような
>行動をしているのかを定量化した。結果、アリのフェロモンによる
>マーキングや、2匹、3匹のアリにおける相互作用が明らかになった。
>
>
>3-2 3匹のアリ同士のコンタクト
>
>3匹のアリにおけるコンタクトの数の時間変化を観察した。アリ同士が
>コンタクトを取ったときを1と数え、A-B,B-C,C-Aの最大3ボンドで
>カウントを取った。3匹のアリにおけるコンタクトの数は、0から3までが
>ありうるが、図4に見られるようにコンタクトの数は1が多かった。
>つまり、アリは2個体でコンタクトを取ることが情報交換のベースに
>なっていると思われる。
http://www.natural-science.or.jp/laboratory/article/20080401144646.php
アリはこの「2匹間のコンタクト」に加えて,
「離れた個体間でも有効な」揮発性の警報フェロモンによってコミュニケーションしています
さらに,アリの巣に共生するエイコアブラバチは
「情報化学物質の識別能力に優れたアリの能力」を利用した戦略をとっています
>巣内外における巣仲間の間でのコミュニケーションは、さまざまな蕫フェロモン﨟に
>よって媒介されている。フェロモンとは「ある個体が体外に分泌し同種の他個体に
>受け取られ、特定の行動や生理的変化を引き起こさせる物質」と定義される。アリは
>地球上の全生物の中で、もっとも多くの外分泌腺を持つ生き物である。そのアリの
>外分泌腺の一部を図2に示した。アリの行列はよく見かけるが、これは餌を見つけた
>アリが巣へもどる際に地面に分泌した道しるべフェロモンのなせる技である。
>このフェロモンはある程度の揮発性をもっており三〇分程度の寿命しかない。
>また生きている大きな昆虫などの餌を見つけた時にたくさんのアリが集まってくる
>のは、攻撃のために相手に吹きかけた蟻酸とともに分泌された警報フェロモンの
>仕業である。
>
>警報フェロモンは薄い濃度では誘引作用があり、濃い濃度では忌避作用を引き起こす。
>これらのフェロモンは揮発性で、お互いに離れた個体間でも有効である。それに対し
>後述する巣仲間識別フェロモンや帰巣フェロモンなどは、触角で触れてはじめて
>分かる不揮発性のコンタクトケミカルである。
>
>アリの巣に共生する昆虫の戦略
>アリが同じ巣の仲間のアリと同種でも巣の違うアリをどのようにして判別しているか
>を確認するための一つの方法として、アリの巣内に共生(共棲)している異種の昆虫
>の戦略を調べてみた。
>エイコアブラバチ(ハチ)はヨモギの根につくナシマルアブラムシ(アブラムシ)に
>寄生卵を産みつける寄生バチである。このアブラムシと共生しガードしているのが
>カワラトビイロケアリ(アリ)である。ハチはアブラムシに寄生卵を産むために近づく
>が、常にアリに攻撃され追い払われ、目的を達することができない。この時にハチが
>とった産卵のための戦略はみごとだ。ハチはアリの隙を見計らって背中に飛び乗り
>しがみつく。アリは暴れるが、ハチは二本の後ろ足を使ってアリの腹部を擦る。すると
>アリはおとなしくなり、ハチは触角で相手の体に触れ、触角をなめたり、体をなめたり
>して三〇分後くらいしてから飛び降りる。その後、翅を自分で噛み落とし、腹部を内部
>に曲げた姿勢でアリに近づいていく。その場合アリに襲われるのでは、と思われるが、
>そうではなく、アリはハチに口移しで餌を与えるようになるのである。この行動は仲間
>どうしの栄養交換と呼ばれ、アリはハチを仲間と認めた証明になる。
>これらの一連の場面におけるハチの体表炭化水素の組成(組成比)の変化を調べた結果
>が図5である。アリに飛び乗る前はn―アルカンのみで構成されていたものが、アリに
>しがみつき飛び降りた後は、その組成比までもアリのものと同じになっている。つまり
>三〇分ほど相手と体を密に接触させ、さらにグルーミングで相手からなめとったものを
>塗りつけていると相手の体表成分が簡単に自分に移って来るのである。このように
>ハチはアリと同じ体表成分を獲得することにより蕫化学擬態﨟を成立させ、アリと
>同じ巣の仲間になっていたのである。情報化学物質の識別能力に優れたアリの能力を
>逆手にとったみごとな生き残り戦略といえる。
http://www.natureinterface.com/j/ni06/P58-61/
甲殻類の一部には
「カイメン,刺胞動物,二枚貝,棘皮動物などに共生して暮らす種」がいるのですが,
その中には「ペア制」のような「恒常的な雌雄関係」を築くものが少なくありません
「十脚甲殻類の社会性(1) ペアで見つかる種のオス─メス関係(生物科学.第49巻第4号.1998年3月)」
によると,甲殻類の「ペア制」は,
オス同士の闘争を経てメスを一時的に確保して交尾する「交尾前ガード」(婚姻形態としては「乱婚」)とは異なり,
恒常的な「一夫一妻制」だと考えられています
Wickler, W. & Seibt, U (1981)は「甲殻類と人における一夫一妻」
("Monogamy in crustacea and man." Zeitschrift Fur Tierpsychologie, 57, 215-234.)
という論文の中で,
「甲殻類と人を研究することで一夫一妻という語の持つ複数の意味が理解できる」
と述べているそうです
この共生甲殻類の中には「他種との情報交換」によって
非常に面白い「社会」を形成している例があります
例えば,ヤドカリが背負っている貝殻の中に共生する例が
テッポウエビ類やカニダマシ類で報告されています
クレナイヤドカリテッポウエビAretopsis amabilisが
コモンヤドカリDardanus megistosなどのヤドカリに接近する際には
第1顎脚のはさみを上下に振ってノックするような行動が見られ,
何らかのコミュニケーションが成立していると推定されています
(亀崎由美子・亀崎直樹(1986) クレナイヤドカリテッポウエビ Aretopsis amabilis De Man の生態に関する知見. 南紀生物, 28: 11-15.)
また,基底に穴を掘って単独またはペアで生活するテッポウエビ類にハゼ類が共生する例があり,
このハゼとエビの間には,危険を察知した時に体や付属肢の動きによって
それを伝達するコミュニケーションが成立していて,
>Karplus, I. 1979. The tactile communication between Cryptocentrus steinitzi (Pisces: Gobiidae) and Alpheus purpurilenticularis (Crustacea, Alpheidae). Z. Tierpsychol. 49: 173-196, 13 figs.
その高い情報伝達量も計算されています
>Preston, J.L. 1978. Communication systems and social interactions in a goby-shrimp symbiosis. Anim. Behav. 26: 791-802.
さらに,共生性の甲殻類の中には,
恒常的な大集団を形成するものも報告されています
「十脚甲殻類の社会性(2)—集団でみつかる共生性の種の個体間関係—(生物科学.第50巻第1号.1998年6月)」
の中で,朝倉影は「真社会性のエビ」として話題になった
ツノテッポウエビ属(Synalpheus)も含めて,甲殻類集団内の個体間関係について論じています
ツノテッポウエビ属のいくつかの種ではカイメン内に一〇〇個体以上の集団で共生し,
極端な性比の偏りや集団内に成熟抱卵メスが1個体だけなどの報告が,
「『真社会性』に該当するのではないか?」と検討されています
『真社会性甲殻類』については分かっていないことが多いのですが,
真社会性のアリ類やペア制の甲殻類の研究からすると
「どのような情報交換を行っているのか」は非常に興味深いですね
>・クモは一匹狼か? --- 社会性クモ
>
>クモは、同種でも容赦なく襲って餌にしてしまう、冷酷な一匹狼であると
>一般に信じられている。メスが交尾の後にオスを食べてしまうのケースが
>ある のは有名な話しだ。
>しかし、共同生活をする「社会性クモ」というのは存在する。一般に卵のう
>から出てきたばかりの子グモは、お互いに「許容性」があって、共食いはしない
>という傾向をもつ。3、4回の脱皮を繰り返すまでは、共同網 での集団生活
>(「まどい」とよばれる)をし、その後、共食いを始めて数が減ったり、
> バルーニング(糸による飛行) をする場合は、思い思いの方向へと散っていく。
>この「許容性」期間が延長されて、 成長していっても同種間で共食いやなわばり
>争いがおこらないことが、社会生活 を可能にする最低条件である。子グモのう
>化後も母グモが生きのびて、子の面倒 を見ないまでも、手当たり次第食べて
>しまわない(子も、親をよってたかって 食い殺さない)というのも、指標で
>ある。その意味では、う化後の何十匹という 子グモたちを腹部に乗せて歩き
>回るコモリグモは、社会生活こそしないが、その 前段階の進化過程(「前社会
>性」)にあるとする学者もいる。
>クモは比較的嗜好の限られない(つまり同種のクモでもおいしく食べられてしま
>うという)肉食性であって、しかも限られた範囲で餌を待ち伏せする「なわばり
> (文字どおり<縄張り>)」行動をとるものが多いから、縄張りの競合を避ける
>ためには、逆に積極的に狩りを共同でするという種もいくつか進化してきた。
>こうなると、敵味方の情報を区別する(なんせ、クモはほとんど目は見えないか
>ら、振動による判断などが頼り)、というコミュニケーションの関係が進化する。
http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Namiki/3684/fact3.html