次の客はOLのN希だった。
N希「私は銀行の受付係で、同じ会社の彼と付き合ってます」
B美は頷いた。
N希「毎年、誕生日プレゼントに喜んでもらえなくて。今年こそ彼が『役に立った』って言うようなプレゼントを贈りたいんです。あと彼、なかなか休みを取れないんですけど、できれば二人で有給をとって、のんびりしたいなあって」
B美は宣言した。
B美「今からあなたに3つの質問をいたします。その答えで未来を占い、3つのアドバイスを授けましょう」
N希「お願いします」
B美「彼は正義感が強い?」
N希「はい」
B美「彼は普段、スーツを着てる?」
N希「はい」
B美「あなたはよく泣く?」
N希「はい」
B美は頷いた。
B美「すばらしい。それではアドバイスを授けましょう。プレゼントはシガレットケースにしなさい。次の日、彼に銀行の窓口に来るように言いなさい。そのとき彼が着るスーツは安物にさせること」
N希は不思議そうに部屋を出て行った。
N希「何、この占い?」
※ 回答欄は8/18(日)21:00-21:59にオープン。22:00以降に正解発表。その他の注意は下の「質問者から」に。
答えが分かった方も、コメント欄やtwitter、ブックマーク等でネタばれしないようにお願いします。
なお、このクイズの小説風の解答方法については、過去の問題も参考になると思います。
【2人の女の子から親切にされたい】http://q.hatena.ne.jp/1330008787
【恋敵より私を選んで】http://q.hatena.ne.jp/1292863823
【ニッポンの恋愛】http://q.hatena.ne.jp/1291026396
【誰かに愛されたい】http://blog.livedoor.jp/lionfan/archives/52910360.html
【モテ男に自分を選ばせたい】http://q.hatena.ne.jp/1280068677
【彼女が欲しい】http://q.hatena.ne.jp/1274434740 野間丈弘さんの作問
【図書委員から告白されたい】http://q.hatena.ne.jp/1273143811 た〜るさんの作問
【運命の女と出会いたい】http://q.hatena.ne.jp/1271508964
【男に追いかけられたい】http://q.hatena.ne.jp/1214752046
【刺激的なデート】http://q.hatena.ne.jp/1213884256
【彼氏が欲しい】http://q.hatena.ne.jp/1203177986
「海、きれいだなあ」
「暑いけど、気持ちいいね」
「ちょっと、飲みものもらってくるよ」
ここは、とあるホテルのプライベートビーチなのだ。肌を焦がすような太陽。百メートル先まで見通せそうな透明な海。サンゴでできた真っ白な砂浜。絵にかいたような南の島で彼と二人きりでバカンスなんて、夢みたい。本当にこうなっちゃうなんて、不思議だったなあ、あの占い師さんの女の子。
―――――――――――――――――――――
「おはよう」
「あ、おはよう、R太くん」
朝の挨拶をしに来てくれたR太。昨日は彼の誕生日。変な占い師に言われた通りにやってみたけど、今年はどうだったのだろう。
「昨日、プレゼント、届いたよ。ありがとう」
「うん、気に入ってくれたらうれしいんだけど」
「煙草をそろそろやめようと思ってたの、言ってなかったっけ」
そう、彼が煙草を止めようとしていたのは私も知っている。
「うん、ちょっと。あのね……」
と、そのとき、いきなり黒いバッグがカウンターの上に置かれた。サングラスをかけてちょっと怖い感じの見た目にドキっとしながらも業務用の声でマニュアルの通りに落ち着いた声を意識して喋りかける。
「お客様。申し訳ございませんが、番号札をお取りになり……」
私の言葉を遮るようにバッグの中から取り出されたのは、黒く光る拳銃。銃口は私の方を向いている。何が起きているのか、私には全く分からない。
「ぜ、全員、手を上げろお! け、警報ボタンを押すような、そ、素振りをしたら、本当に、う、撃つぞお」
私の胸の方にまっすぐに向いている拳銃の先は小刻みに震えている。初めて見る拳銃は意外と大きくは無く、むしろ小さくておもちゃのようだ。サングラスの男は私の考えていたことが分かっているかのように、こう言った。
「ほ、ほ、本物だぞお」
「きゃあっ」
他のお客様も、こちらの騒ぎに気がついたらしい。サングラスの男は悲鳴が上がった後ろの方を振り向き「全員、床に這いつくばれえ」と命令する。一瞬、こちらから気がそれたと思った瞬間。
「今だっ」
R太はカウンター越しにサングラスの男に飛びついた。拳銃を奪い取ろうとしているんだ。目の前に起きていることは映像として頭の中に入ってきているのだけれど、体は凍りついたようにピクリとも動かせない。と、そのとき、
「パァーン」
乾いた音にはじかれて、カウンターからもんどりうって落ちるR太。震えながら拳銃を取り落すサングラスの男。
「あ、あ、あいつが悪いんだ……」
そのとき、銃声を聞きつけた巡回のお巡りさんが入ってきた。
「何をやっとるかあ!」
犯人はお巡りさんに取り押さえられ、固まっていた私の時間はようやく元の流れを取り戻した。
「おい、誰か救急車だ。早く!」駆け寄ってきた支店長が大きな声で叫ぶ。
そうだ、R太。軽くゆすってみても、彼はぴくりとも動かない。彼の左胸にはちょっと焦げた大きな穴が開いている。
「ねえ、大丈夫!? 眼を開けてよ! 死んじゃやだよう……」
私の眼からは、大粒の涙が後から後からこぼれ落ちる。
「ゆすっちゃいかん。救急車が来るまで動かさないように」
「だって、だって……」
彼の顔はいつもの寝顔と変わらないようにしか見えない。近くに寄って見ても、いつもの元気で優しい彼だ。私の涙が彼の顔にもぽたぽたとかかる。涙で濡れて、まるで彼までが泣いているように見える。
「うわっ」
急に彼は体を起こし、両の袖でぐしょぐしょになってる顔を拭く。
「なんだ? あ、また泣いてんのか、N希。今度はいったい……」
「生きてる、生きてる!」
「あ、そう言えば、オレ撃たれて……」
手を胸にやる彼。スーツの内ポケットに入れた手がつまんで出したのは、ぐしゃりとひしゃげたシガレットケースだった。弾丸を受け止めるほどには頑丈なものではないが、弾いて方向をそらす程度には十分だったらしい。
「N希のプレゼントに命を助けられたんだな……」
いつもの笑顔で話しかけてくる彼の顔を見て、私の涙は、また止まらなくなった。
「良かった。本当に、良かった」
「泣かなくても良いって。この通り、大丈夫だったんだから。スーツに穴、開いちゃったよ。ちぇ、結構、気に入ってたやつだったんだけどなあ……」
穴の内側から指を出しておどける彼。私を慰めようとしてくれているらしい。
「あっ! 安物のスーツにしなさいって、穴が開いちゃうから……」
―――――――――――――――――――――
その後、彼は犯人逮捕に協力したってことで表彰を受け、会社からも金一封を頂いた。「精神的なショックは大きいだろうから」という、支店長の計らいで一週間の休暇ももらい、今、こうしてリゾートホテルでの休日を楽しんでいるというわけ。あの占い師さん、すごいなあ。こうなることまで分かってたのかしら。むしろ、占いというよりも超能力よね。
「何、難しい顔をしてブツブツ言ってんのさ」
「うふふ、ないしょ」
せっかくの誕生日プレゼントは、役に立ったけど使いものにならなくなっちゃったし、買いなおすとしても、もうちょっと頑丈なケースにしておこうか、別のものにしようかしら。また、あの占い師さんのところに行って相談してみようかなあ。今度は、彼が危ない目に合わないやつでお願いします、って言わなきゃ駄目ね。
(おしまい)
教室を出たN希は、女子学生から声をかけられた。
I穂「お疲れさまでした。私はI穂です。友達からはアイちゃん、って呼ばれているんですよ。この占いは、B美が中で占いをして、その説明を聞いた私が解説をするという、いわば『二段階占い』なんです。B美のアドバイス、どうでしたか?」
N希は首を振った。
N希「ぜんぜん意味がわかりませんでした」
I穂はにっこりした。
I穂「これは、そういうシステムですからね。ところであなたのお名前はなんですか?」
N希「N希です。アイちゃんさん、でしたっけ」
I穂「I穂で結構です。ではB美が中で、どんなことを言っていたか、説明いただけますか?」
N希は教室内でのB美の占いの結果を説明すると尋ねた。
N希「で、I穂さん、この占い、どういう意味なんでしょう?」
I穂は微笑んだ。
I穂「多少ショッキングな結果ですけど、N希さんの願望がしっかりと実現されてますね」
N希「えっ?」
I穂「N希さんの希望は、役に立つプレゼントとのんびりした休日ですよね?」
N希「ええ」
そこからI穂はいっきに捲し立てた。
I穂「銀行の窓口に行く。そこで巻き起こるお約束のイベントがあります」
N希「?」
I穂「それは、銀行強盗です。銀行強盗といえば拳銃。拳銃を持った銀行強盗に押し入られるわけですね。N希さんの銀行が。
するとどうなるでしょう?
占いの結果によると、彼は窓口にいるわけです。そこで正義感の強い彼なら間違いなく、銀行強盗を取り押さえに掛かります。
あるいは、パニックになって逃げだしたお客さんなりなんなりが、銀行強盗に拳銃で狙われて……、銃弾が命中する! その直前に、間に割って入って命を救うわけです。お客さんの身代わりになるのですね。
よりドラマチックな展開としては、あなたが銀行強盗に襲われて人質になって泣き叫んで、逆上した犯人が貴方に発砲して・・・・・・、まあ彼氏が助けるという、自らを犠牲にして。
いずれにしても、彼は凶弾に倒れます。胸を撃たれるわけですね」
N希「そんな・・・胸なんか撃たれたら!」
I穂「でも大丈夫! 着ているスーツは安物ですから、穴が開いても惜しくはありません」
N希「スーツの心配よりも・・・」
I穂「そして、N希さんはそんな彼の姿を見て心の底から涙するでしょう」
N希「・・・」
I穂「駆け寄ったN希さんに抱きかかえられて、彼はにっこり微笑んで胸のポケット、銃弾で穴が開いたその奥から、あなたの贈った銀(チタン)製のシガレットケースを取り出しながら、笑いながらこういうのです。
『N希のくれたプレゼントが初めて役に立ったよ』って。
スーツですから胸ポケットがあってちょうどいいですよね。左胸を保護出来て」
N希「それじゃあ・・・、私の贈ったプレゼントが銃弾を受け止めて彼の命を救うのに役に立つってことなんですか!?」
I穂「ええ、それに、彼の勇気ある行動は称えられて、特別ボーナスとして休暇を貰えることになるでしょう。もちろん、彼の身を必死で案じて泣きじゃくっていたN希さんも一緒にですね。どうせ銀行は事件の後始末でてんやわんやでしょうし、警察の事情聴取が終わればあなたたち二人も解放されるでしょうから」
N希「それにしても銀行強盗って・・・現実味が・・・」
I穂「それが、お約束ですからっ!」
id:doumorimikan様、フォーマットに従った回答、ありがとうございます。面白かったです。
N希「スーツの心配よりも・・・」・・・のところとか、ユーモアがあっていいですね。それでは正解発表まで、あと40分ほどお待ちください。
id:doumorimikan様、回答ありがとうございました。もちろん正解です。全伏線を余さず使っており、素晴らしい解答でした。今回は不正解者が1人もいないので困ります!
N希が教室を出ると、女子学生から声をかけられた。
I穂「あの、この教室で、占いをされたと思うんですが」
N希「はい、でも意味がわからなくて・・・」
I穂「B美の占いは、解説なしではわかりにくいと思います。説明いたしますので、内容をお話しいただけますか?」
N希は一部始終を話した。
N希「・・・というわけなんです。意味わかりますか?」
I穂はうなずいた。
I穂「N希さんのプレゼントが正義感の強い彼の役にたって喜ぶお約束・・・これは『拳銃で撃たれて九死に一生を得る』ですね」
N希「はい?」
I穂「誕生日の次の日、N希さんの勤務する銀行に彼が来ます。そこに入ってきたのが、拳銃を持った銀行強盗。銃口をN希さんに向けて、『金を出せ。さもないと撃つぞ』と言います」
N希「はあ」
I穂「彼は正義感にかられて、拳銃とN希さんとの間にわって入ります。『脅しだと思うなよ』と言った強盗は、彼に向けて拳銃を撃ちます。発射された銃弾は、回りの空気を切り裂きながら、スローモーションで彼に向かって一直線」
N希「それってどこのマトリックスですか?確かに彼はキアヌ・リーブス似だけど」
I穂「素晴らしい。銃弾は彼の左胸に当たり、彼は床に崩れ落ちます」
N希「ええと」
I穂「ここからです。彼に駆け寄ったN希さんの目から、大粒の涙があふれます。スローモーションで落下する涙が彼の頬に当たった時、彼は目を覚ますのです」
N希「それってどこの白雪姫ですか?確かに私も彼もディズニー好きだけど」
I穂「撃ち殺したと思った男が生き返った事に動揺した銀行強盗は、あっさり捕まります。彼は身を挺して強盗を阻止した銀行員の鑑となり、金一封と特別休暇が与えられます。時期を合わせて有給休暇を取ったN希さんと、ディズニーリゾートのホテル・ミラコスタで豪華なフレンチのフルコースを食べた後、彼がスーツの内ポケットからシガレットケースを出します。『君のプレゼントが僕の命を救ってくれたんだ。こんなに役に立ったプレゼントは初めてだよ。ありがとう』と言う彼が手にしたシガレットケースには、銃弾による凹みがありました」
N希「なるほど。スーツ姿じゃないとシガレットケースを内ポケットには入れられないし、銃弾で穴が開くから、スーツは安物なのね」
I穂「『もうあんな危ない事はしないでね』と言うN希さんに、彼は首を横に振ります。『僕は君のためなら死ねるよ』。無言で見つめ合う二人を祝福するように、窓の外で花火が打ち上がります」
N希「そのセリフって、どこの愛と誠の岩清水弘ですか?・・・でも夢の様なお話ね」
I穂「かのウォルト・ディズニーもこう言ってます。『夢を追う勇気さえあれば、すべての夢は叶えられる』」
N希は微笑みながらうなずいた。
N希「わかったわ。できるだけ頑丈なシガレットケースを探します」
(了)
「あなたはよく泣く?」の拾い方が、ちょっと自信なしです。
開き直って、趣味のディズニーに走ってみました。
ちなみに、引用したディズニーの名言は、英語だとこんな感じです。
All our dreams can come true — if we have the courage to pursue them.
Walt Disney - Wikiquote
あと、真面目に防弾性能を追求した製品がこちら。
iPhone4/4S用 1インチ装甲ケース 有限会社マルダイ
「海、きれいだなあ」
「暑いけど、気持ちいいね」
「ちょっと、飲みものもらってくるよ」
ここは、とあるホテルのプライベートビーチなのだ。肌を焦がすような太陽。百メートル先まで見通せそうな透明な海。サンゴでできた真っ白な砂浜。絵にかいたような南の島で彼と二人きりでバカンスなんて、夢みたい。本当にこうなっちゃうなんて、不思議だったなあ、あの占い師さんの女の子。
―――――――――――――――――――――
「おはよう」
「あ、おはよう、R太くん」
朝の挨拶をしに来てくれたR太。昨日は彼の誕生日。変な占い師に言われた通りにやってみたけど、今年はどうだったのだろう。
「昨日、プレゼント、届いたよ。ありがとう」
「うん、気に入ってくれたらうれしいんだけど」
「煙草をそろそろやめようと思ってたの、言ってなかったっけ」
そう、彼が煙草を止めようとしていたのは私も知っている。
「うん、ちょっと。あのね……」
と、そのとき、いきなり黒いバッグがカウンターの上に置かれた。サングラスをかけてちょっと怖い感じの見た目にドキっとしながらも業務用の声でマニュアルの通りに落ち着いた声を意識して喋りかける。
「お客様。申し訳ございませんが、番号札をお取りになり……」
私の言葉を遮るようにバッグの中から取り出されたのは、黒く光る拳銃。銃口は私の方を向いている。何が起きているのか、私には全く分からない。
「ぜ、全員、手を上げろお! け、警報ボタンを押すような、そ、素振りをしたら、本当に、う、撃つぞお」
私の胸の方にまっすぐに向いている拳銃の先は小刻みに震えている。初めて見る拳銃は意外と大きくは無く、むしろ小さくておもちゃのようだ。サングラスの男は私の考えていたことが分かっているかのように、こう言った。
「ほ、ほ、本物だぞお」
「きゃあっ」
他のお客様も、こちらの騒ぎに気がついたらしい。サングラスの男は悲鳴が上がった後ろの方を振り向き「全員、床に這いつくばれえ」と命令する。一瞬、こちらから気がそれたと思った瞬間。
「今だっ」
R太はカウンター越しにサングラスの男に飛びついた。拳銃を奪い取ろうとしているんだ。目の前に起きていることは映像として頭の中に入ってきているのだけれど、体は凍りついたようにピクリとも動かせない。と、そのとき、
「パァーン」
乾いた音にはじかれて、カウンターからもんどりうって落ちるR太。震えながら拳銃を取り落すサングラスの男。
「あ、あ、あいつが悪いんだ……」
そのとき、銃声を聞きつけた巡回のお巡りさんが入ってきた。
「何をやっとるかあ!」
犯人はお巡りさんに取り押さえられ、固まっていた私の時間はようやく元の流れを取り戻した。
「おい、誰か救急車だ。早く!」駆け寄ってきた支店長が大きな声で叫ぶ。
そうだ、R太。軽くゆすってみても、彼はぴくりとも動かない。彼の左胸にはちょっと焦げた大きな穴が開いている。
「ねえ、大丈夫!? 眼を開けてよ! 死んじゃやだよう……」
私の眼からは、大粒の涙が後から後からこぼれ落ちる。
「ゆすっちゃいかん。救急車が来るまで動かさないように」
「だって、だって……」
彼の顔はいつもの寝顔と変わらないようにしか見えない。近くに寄って見ても、いつもの元気で優しい彼だ。私の涙が彼の顔にもぽたぽたとかかる。涙で濡れて、まるで彼までが泣いているように見える。
「うわっ」
急に彼は体を起こし、両の袖でぐしょぐしょになってる顔を拭く。
「なんだ? あ、また泣いてんのか、N希。今度はいったい……」
「生きてる、生きてる!」
「あ、そう言えば、オレ撃たれて……」
手を胸にやる彼。スーツの内ポケットに入れた手がつまんで出したのは、ぐしゃりとひしゃげたシガレットケースだった。弾丸を受け止めるほどには頑丈なものではないが、弾いて方向をそらす程度には十分だったらしい。
「N希のプレゼントに命を助けられたんだな……」
いつもの笑顔で話しかけてくる彼の顔を見て、私の涙は、また止まらなくなった。
「良かった。本当に、良かった」
「泣かなくても良いって。この通り、大丈夫だったんだから。スーツに穴、開いちゃったよ。ちぇ、結構、気に入ってたやつだったんだけどなあ……」
穴の内側から指を出しておどける彼。私を慰めようとしてくれているらしい。
「あっ! 安物のスーツにしなさいって、穴が開いちゃうから……」
―――――――――――――――――――――
その後、彼は犯人逮捕に協力したってことで表彰を受け、会社からも金一封を頂いた。「精神的なショックは大きいだろうから」という、支店長の計らいで一週間の休暇ももらい、今、こうしてリゾートホテルでの休日を楽しんでいるというわけ。あの占い師さん、すごいなあ。こうなることまで分かってたのかしら。むしろ、占いというよりも超能力よね。
「何、難しい顔をしてブツブツ言ってんのさ」
「うふふ、ないしょ」
せっかくの誕生日プレゼントは、役に立ったけど使いものにならなくなっちゃったし、買いなおすとしても、もうちょっと頑丈なケースにしておこうか、別のものにしようかしら。また、あの占い師さんのところに行って相談してみようかなあ。今度は、彼が危ない目に合わないやつでお願いします、って言わなきゃ駄目ね。
(おしまい)
id:a-kuma3様、実は普段は、凝った回答は、かえって他の人には分かりにくいのでベストアンサー候補から外してしまうのですが、この小説は読みやすく、かつ正解も分かりやすい名文でしたので、ベストアンサーにしたいと思います。おめでとうございます。
うしっ! (`・ω・´)
それこそ、お約束のI穂を抑えてのベストアンサー、うれしいです。
B美たちの掛け合いじゃない小説風回答でベストアンサーを取りたかったんですよね♪
「おとなしく金を、このカバンにつめな」
とある地方銀行の、とある支店の窓口に立った男は、低い声で制服の女性に告げた。女性銀行員が顔を上げると、鼻の先に黒い銃口が有った。サングラス越しに、冷たい視線が突き刺さった。
「し、少々お待ちく」
「さっさとその金を入れるんだ」
男は、窓口越しに、空いた方の手を伸ばして来た。行員の女性は、少し後ろに下がりながら、窓口の下の非常ベルに手を伸ばそうとした。
「おっと」
男は、窓口を乗り越え、女性行員の横に飛び込んで来た。
男がカバンを取り、女性行員を突き飛ばそうとした時だった。近くにいた男性行員が、男に体当りをした。
男は窓口の下に飛ばされ、銃を持つ手が床にぶつかった。
「あ」
男性行員が、ゆっくりと崩れ落ちた。右手を左胸にあてがい、女性行員の膝の上に仰向けに倒れた。
男性行員は、目を閉じていて、すでに動かなくなっていた。
「い、いやあぁぁぁぁぁ」
女性行員の悲鳴が、フロアに響く。
警備員が飛び込んで来た時には、鎮痛な空気がたちこめていた。
「一緒にのんびりしようって、昨日いったばかりじゃないの」
青白い男性行員の顔を抱きしめて、女性行員は囁きかけていた。その目には、涙が光っていた。
その涙が、彼女の目から彼の頬に落ちた。
すると。
彼の目がかすかに動いた。
「あ、気がついた?生きてる?生きてるのね」
彼の顔を抱きしめ、彼女は叫んだ。
「あ、ああ。生きてるらしい。」
救急隊員が彼を担架に乗せる。その時、左胸を押さえていた右手がはずれた。
そこには、五百円玉くらいの穴が空いていた。
「これで、なんで出血していないんだ?」
救急隊員が、肩の崩れたスーツを剥がす。その胸のポケットには、シガーケースがはいっていた。それを取り出すと、そこには潰れた銃弾が噛み付いていた。
病院の窓から、爽やかな風が入ってくる。ベッドには、彼が横たわり、窓のカーテンの先を見ている。ベットの脇で、彼女がウトウトと、まどろんでいる。
「ありがとう」
彼が、つぶやくと彼女が目覚めた。
「ん?」
起き上がる彼女に、彼が言う。
「ありがとう。君のプレゼントがなかったら、僕は…」
「ううん、あなたこそ助けてくれてありがとう。」
「本当に、君のプレゼントは、役にたったよ。ありがとう。」
「今週末までは、様子見で入院なんだから、のんびりしましょ。私もやすむから。」
彼女の笑顔は、大輪の花の様だった。
できたてホヤホヤです。
ひねる暇が有りませんでした。
id:takejin様、いつもクイズにほぼ皆勤でお答えいただき、ありがとうございます。正解をまず外さないので、いつも驚いてます。サスペンス→涙→復活!→ハッピーエンドという流れをきちんと描写していてさすがです。
-----謎解き・お約束占い・彼をプレゼントで喜ばせたい・解答編-----
教室を出たところで、N希は声を掛けられた。
I穂「こんにちは。占い解説係のI穂です」
N希「えっ?」
I穂「この占いは『二段階占い』といって、最初に中で難しい占いをして、どんな占いだったかを私が外で伺い、解説しつつ占う、という二段構えなんです。それでは、中でどんな話があったのか、教えていただけますか?」
N希は一部始終を説明した。I穂は頷いた。
I穂「了解いたしました・・・ちなみに私、友達からはアイちゃん、って呼ばれてます。さて、この占いの意味ですが、『胸ポケットのシガレットケースが役に立ったぜ』です」
N希「はあ?」
I穂は笑顔になった。
I穂「彼への誕生日プレゼントを、彼は役に立ったと思ってくれない、というのがお客様のお悩みでしたよね?」
N希「そうです」
I穂「さて今年の誕生日は、アドバイスどおり、彼にシガレットケースを贈ることにしました」
N希「はい」
I穂「彼はそれを胸ポケットに入れ、あなたの指示通り、安物のスーツを着て銀行の窓口に向かいます」
N希「それで?」
I穂「『やあN希、来たよ』『きゃー、うれしい。いつもスーツ姿、決まってるわね』『昨日はプレゼント、ありがとう。タバコのおいしさが五割増しだ』『でも身体によくないわ。できれば控えてね』『君の愛で、一日に一本で胸がいっぱいだよ!』仕事中だというのに、デレデレとタワけた会話をしているときに、あなたの窓口に銀行強盗がやってくるんです」
N希「銀行強盗!?」
I穂「銀行強盗はあなたに銃をつきつけて言います。『黙って金を出せ! これは本物の銃だぞ!』行内は大混乱。そこに正義感の強い彼が、『やめろ!』と強盗に飛びかかり、取っ組み合いになるんですね」
N希「ええー?」
I穂「もみあっているうちに、強盗が銃で、彼氏の胸のあたりを撃ってしまいます ズキューーン! 彼氏はバタッと倒れます。強盗は警備員たちに取り押さえられるのですが、あなたは彼のほうが心配。あわてて駆け寄ります。『大丈夫? 聞こえる?』ところが彼は目をつぶったまま、起き上がりません」
N希「はい・・・」
I穂「泣き虫なあなたは、彼の胸にすがって泣きます。『ねえ、返事してよ? こんなことなら、もっと二人の時間を大事にしておけば良かった・・・』あなたの涙が、彼の顔にポロポロと落ちます・・・ここが重要なんですね・・・」
N希「なぜ重要なんですか?」
I穂「物語において、女の涙は万能薬だからです! 彼はむっくり起き上がって言います。『胸のシガレットケースが役に立ったぜ! ありがとう。君のプレゼントが守ってくれたんだ!』彼が取り出したシガレットケースのど真ん中には、ひしゃげた弾丸が刺さっておりました」
N希はあきれた。
N希「ああ、そういうお約束だったんですね」
I穂は頷くと続けた。
I穂「さて、あなたの彼氏は、弾丸の貫通はなかったものの、少しは打撲傷もあり、上司の許可も下りたので、療養することになりました。仕事疲れもたまっていたので、二人にはちょうど良い休暇となります。ダメになった安物スーツの数等、マシなスーツを、何着も買えるほどの特別ボーナスも出ます。社内での彼氏の評判も上がる一方」
N希「へえ」
I穂「甲斐甲斐しいあなたの看病のおかげで、彼はすっかり回復します。『いままでありがとう。すっかり回復したよ。君のおかげさ』『いえ、私なんて・・・』『でも今度は、君の恋の矢が胸を貫いてしまった。どうすればいい?』『まだ休暇はたっぷり残ってるから、南の島にでも行って、甘いくちづけとかどう?』二人は人目のないことをいいことに、部屋でいちゃいちゃ甘えたい放題。もう聞いてられません!」
N希はあきれた。
N希「よくそこまでいろいろ思いつきますね・・・でもようやくお約束占いの意味がわかりました。ありがとうございます。アイちゃんさん」
I穂は満面の笑顔で答えた。
I穂「I穂で十分です。さて、占いの結果を申し上げます。ちょっと心配性ですが、心の優しい人です。よく気が利きます。美しい心の持ち主です。信頼されることが多いでしょう。忍耐力があります。のんびり屋です。留守番が苦にならないタイプでしょう」
N希「すっごい。当たってます! アイちゃんさん、すごいですね!」
I穂はにっこりした。
I穂「何 でも占っちゃいます!」
---謎解き・お約束占い・彼をプレゼントで喜ばせたい・解答編・終わり---
id:a-kuma3様、実は普段は、凝った回答は、かえって他の人には分かりにくいのでベストアンサー候補から外してしまうのですが、この小説は読みやすく、かつ正解も分かりやすい名文でしたので、ベストアンサーにしたいと思います。おめでとうございます。
2013/08/18 22:00:45うしっ! (`・ω・´)
2013/08/18 22:20:07それこそ、お約束のI穂を抑えてのベストアンサー、うれしいです。
B美たちの掛け合いじゃない小説風回答でベストアンサーを取りたかったんですよね♪